kitayu
北湯  私の最も好きな温泉宿がこの北湯である.温泉旅館に泊まった経験は多いとはいえないし、行動圏も関東近県と限られているから、探せばこれ以上のすぐれた宿はあるのかもしれないのであるが、ここが最上とすでに決めてかかっている. ここは私の温泉を訪れる目的によく一致しているのである.
 前々からこの温泉を秘湯であると私は思い込んできたのであるが、よく考えてみれば、代表的な保養地那須にあるわけであるし、さすがに旅館の入口には車をつけられないとはいえ、歩く時間は10分に満たない. そして温泉案内には必ず登場するからよく名も知られている.北湯は決して秘湯ではないのである.
 それなのに秘湯と感じてしまうのは、山あいの鄙びた温泉を見事に演出する古い木造建築であるからであろう.薄暗い廊下や急な階段など、現在の多くの人々が求める快適さから大きく離れた基準がこの宿には存在している.昔はこれで十分だとだれもが感じていたのである. そして滞在してみれば、これで充分であると私は感じる.週末、湯に入れてくつろげる場所が提供されればいいのであるから、見かけだけ工夫された建物など私には必要ない.ノスタルジー的な心持ちがあることは否定できないが、私はこのような古い建物の方が気が休まるのである.
 建物の奥には内湯天狗風呂がある.混浴、廊下との境はない.ここに来るだれもが、温泉を目的にしているのだから浴室が添え物のように隔離されている必要はない.氷つくような寒さの中、服を脱ぎ駆け込むと、湯気の中には巨大な天狗の面が並ぶ.だからこの風呂は天狗の湯と呼ばれている.
 内湯のすぐ手前には自炊場が健在である.もともと湯治場であったのだろうが、今でも湯治客がやってくるのだろうか.私は温泉の効能を期待してはいないが、泉質は悪くはないのであろう.
北湯旅館 鬼瓦
旅館の表玄関. 屋根の鬼瓦には温泉の文字が入っている.しかも右から書かれている.
プール 宿の入口にあるプールの湯.泳ぐのに充分なほど広い.難点は湯温が低く、ぬるま湯に漬かるのたとえの通り一度入ったら出られなくなること.
駒止の滝 温泉のすぐ下流にある駒止の滝.滝壺に通ずる道はなく遠見の滝を楽しむのみ. 宿で売られていた絵はがきを見るとかなり美しい流れであった.



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