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仙水峠から登り、山頂の南にある駒津峰に立ったとき、その花崗岩の岩峰はいよいよ目前にせまってきた.
驚くほど巨大な岩塊、白一色の表面に目を凝らしてみても道らしきものはみてとれない.双眼鏡を覗きこむと、色とりどりの小さな人影が
点々と岩にへばりつくかのように一列に並んでいるのが見える.それは角砂糖に取りついた蟻の行列のような姿であった.
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眺望される甲斐駒ヶ岳、その山姿の特異さから、だれもが容易に確認できる山である.
このあたりの山々のことを、ほとんど知らなかったころの私でも、甲斐駒のピラミッドと地蔵ケ岳のオベリスクだけは、その場所をすぐ指差せたものである.
中央線で松本方面に向かうとき、この山が現れると、いよいよ南アルプスの麓に来たことを実感させられる.学生時代、電車の車窓に現れたその山の高さと荒々しさに取り
つかれたように見入った思い出がある.そのころの私にとって、このあたりの山は登るものではなく鑑賞の対象に過ぎなかった.将来この山に実際に登るとは夢にも思わなかった
ものである.後に、奥多摩あたりをはじめとする低山に通うようになってからも、私にとって南アルプスの山々は、まだ敷居の高いままだった.
そして、ついに南アルプスに手をつけはじめた後も、この山は先に延ばされる運命となった.その理由は黒戸尾根の厳しさである.甲斐駒ヶ岳山頂より北東へ長く迫り出した
黒戸尾根.この尾根を伝う登山道は、末端には駒ヶ岳神社もあって昔からの由緒正しい登路であり、甲斐駒表玄関の赴きがあり魅力的なものだ.釜無川源流のひとつである
尾白川の登口、まだ標高で800メートルほどしかなく、2967メートルの山頂まで2100メートルの登高を残している、屈指の難コースとして知られている.
もちろん、甲斐駒ヶ岳には南アルプススーパー林道の北沢峠から登るルートもある.北沢峠は標高で2030メートル、こちらは900メートルの登高ですんでしまう手軽なコースだが、
日帰りで登る山の標高差ほどでしかないから、わざわざ南アルプスに出かけていくからには、ちょっとものたりなさを感じるものである.
どこから登ろうが、山頂に立つことには変わりないとはいえ、駒ヶ岳に登った思い出としては、ちょっと手抜きしすぎた後ろめたさが残る感じである.
今後中央線から、この山をみたときにその安易な登山経験を反映して、その威厳が減じられることになることは避けたいと考え、正攻法である黒戸尾根を、いずれ自信がついてから
登るべきだと考えつづけてきた.
しかし、この決心はいとも簡単に破られることになってしまった.広河原までキャンプをしようと出かけてきたついでにこの山を目指してしまったからである.広河原にいざ着いてみれ
ば、空は青々と快晴、北岳山頂もはっきりその姿を見せている.明日晴天であれば、キャンプだけで帰ってしまうのも惜しまれ、さしあたって登れる山を探すことになった.
ガイドブックを開けば、広河原を出発し、終バスまでに間に合いそうな山は、仙丈ヶ岳か駒ケ岳に限られている.どちらかといえば、仙丈ヶ岳が候補であるが、記載されていたコースタ
イムでは、北沢峠から8時間.朝7時すぎに峠にバスが着くから、15時10分の最終バスではちょっとぎりぎりになりそうな感じがする.それに比べ、甲斐駒ヶ岳の方はコースタイムで
6時間.これなら余裕もあるし、もし登頂に時間を費やし過ぎてしまったら、黒戸尾根を下ってしまうという荒業も可能だろう.白州町からなら遅くなってしまってもタクシーを使って中央線
まで出るのも容易で問題なさそうに思える.
結局、安全な駒ヶ岳に登ることに決めた.黒戸尾根を下ることも考え、テントをたたみ日帰りにしては重い荷を背負っての出発となってしまった.北沢峠でバスを降りる.仙水峠の入口は
林道を少しもどったところにある北沢長衛荘の入口だ.この小屋の先で沢を渡る.ここから峠までは北沢に沿った登りでゆるく快適だ.左岸の歩道は堰堤をいくつか越えて、仙水小屋に着く.
この先で、樹林中の登りを終え、明るいガレに出ると仙水峠はすぐだった.残念ながら、仙水峠はガスに包まれていたが、ガスの切れ間を待てば、丸みをおびた摩利支天が見える.
峠から、進路は北に変わり駒津峰への登りとなった.登山者の数は多く、抜いては抜かれの繰り返しで駒津峰に着いた.
駒津峰から見える甲斐駒山頂部の光景には圧倒された.白い巨大な塊が前に待ち構えている.稜線を辿り北東に向かうといよいよ山頂への登りに入った.分岐を直登ルートへ取る.
直登という言葉にふさわしく、岩とマサの急斜面、背中の荷が下に引っ張られるような感じを味わいながら攀じ登るコースであった.仙水峠では、穏やかな丸に見えていた山頂も、ここから見
れば尖っていて直線の重なりだ.どこからとなく人の会話が聞こえてくると、平穏な山頂に出た.祠の建つ山頂は、ちょうどお昼、まずは腰を降ろし昼食を作ることにした. |
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| 仙水峠よりみた摩利支天と山頂. |
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| 駒津峰手前から. |
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| 駒津峰から. |
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| 三角点.近々航空写真を撮影するのであろうか.白い目印板がつけられていた. |
石積みの祠が建つ. |
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| 山頂の東側には黒戸尾根が上がってくる.北沢峠までバスが運行されるようになって、利用されなくなってしまった.
一時間ほど山頂にいた間に登ってきたのは数人にすぎなかった. |
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| 仙水峠に立った時、その存在感に圧倒された摩利支天も、山頂から見下ろせば1ピークにすぎない. |
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| 双児山から甲斐駒ケ岳を見る.手前のハイマツのピークは駒津峰. |
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